(NHK Eテレ 「こころの時代」 - 敵対と共生のはざまで - より)

ウイルスは19世紀末に発見された。
そしてラテン語で”毒”を意味する「ウイルス」と名付けられた。それから半世紀の間ウイルスは微小の細菌と考えられていた。実際にはウイルスと細菌は全く別の存在です。
サーズや鳥インフルエンザはウイルスによる感染症です。しかし、サーズ菌だとか鳥インフルエンザの病原菌という言葉を何回も耳にしたことがあります。
菌というのは、細菌の事で、ウイルスとは全く違いますが、世間では、よく混同されがちです。
ウイルスと細菌には二つの大きな違いがあります。

一つは、大きさです。

多くの細菌は1,000分の1ミリ前後の大きさです。ウイルスはその細菌の10分の1から100分の1ミリくらい、と小型です。
細菌は普通の光学顕微鏡で見ることが出来ますが、ウイルスは電子顕微鏡でなければ見ることができません。

もう一つの違い、これが最も重要な点ですが、細菌は原始的な細胞で、動物や植物の細胞と同じ様に二つに分裂することで増殖します。
細菌には子孫を作るための遺伝子情報としての核酸であるDNAがあります。そして、その情報に従って子孫のタンパク質を作るための代謝やエネルギーを供給するメカニズムを備えています。
つまり、細菌は増殖するために必要な情報と機能を兼ね備えているわけです。
ウイルスは核酸を持っていますが、代謝機能を借りて子孫のウイルスを作っています。
究極の寄生性の生命体であって、外界におかれたウイルスは全く増えることは出来ません。数分から数時間で死滅してしまいます。

ウイルスは特に熱に弱く、紫外線や薬品などでも容易に死滅します。
しかし、ウイルスはひとたび生物の細胞に侵入すると、細胞のタンパク質合成装置をハイジャックしてウイルス粒子の各部品を合成させ、それらを組み立てることにより大量に増殖します。
親ウイルスが一旦忍者のように姿を消した後に子ウイルスが生まれるのです。
ウイルスを生命体としてみた時、そこにはには独特な”生”と”死”が存在します。
21世紀初めにシベリアの永久凍土に埋もれていた太古のウイルスが見つかりしかも生きていました。古代のウイルスがよみがえり「ヒト」に病気を引き起こすこともないとは言えないのです。
ウイルスが生まれてから死ぬまでの一生を眺めてみると、ウイルスは生と死の境界を軽々と飛び越えてくるように見えます。
ウイルスがいきているかどうかという問題と、生物か無生物かの問題が絡んでくると思いますが、生きているか死んでいるかというと、私は生きていると、ずーっと思ってきました。
生か死かのその境目は分かりません。

ところが、今は、ウイルスは細胞に寄生しなければ増えない、自力では増えないから生物ではないという議論があった。

つづく・・・・・。